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アカデミー賞は、なぜ「アバター」と「インセプション」を嫌うのか

アカデミー賞が予想通り、「英国王のスピーチ」に輝いたが

今年のアカデミー賞が決定した。かねてからの予想通り、「英国王のスピーチ」だった。僕は、現在、公開中の「英国王のスピーチ」はおろか、「ソーシャル・ネットワーク」も見ていない。作品賞ノミネート10作品「127時間」「キッズ・オールライト」「ザ・ファイター」「インセプション」「ブラック・スワン」「ソーシャル・ネットワーク」「Winter's Bone」「トイ・ストーリー3」「英国王のスピーチ」「トゥルー・グリット」のうち、見ているのは「インセプション」ただ1本である。したがって、それぞれの映画の良し悪しを評価する資格はない。それでも、この結果は十分に予測できた。それは、生中継していたWOWOWに登場していた人が言っていた「アバターの揺り戻し」という言葉からだ。

昨年のアカデミー賞は「アバター」だと思いこんでいる人がいるのではないだろうか。実は、「インセプション」と同じく、作品・監督賞が取れなかった。いや、それどころではない。「インセプション」が4部門とったのに対して、「アバター」は3部門しか取れなかったのだ。昨年、作品・監督賞を含め6部門とったのは、「ハート・ロッカー」だった。(昨年の受賞成績)

僕は、ゲームのような映画「AVATAR」考(ネタバレあり) で、「アバター」は純粋にジェームズ・キャメロン監督の頭から紡ぎだされたことをパンフレットから引用した。

ジェームズ・キャメロンは、遠く離れた世界を舞台とした映画を作ったというだけではありません。まるで彼が実際にあの場所へ旅して、大量のメモをとり、戻ってきて彼が体験したあらゆる出来事を紙に書き出し、その後で映画を作ったようなものです

「ジムと調子を合わせるのは大変でした。彼は創り出しただけではなく、自分が見た世界を紹介しているからです。彼はその世界を目にして、我々に報告していたんです。ジムのデザインに対するアイデアを聞いていると、あまりに詳細にわたっているので、あの架空の動物たちが本当に存在しているような気がします。それほど彼はすべての動植物について考え抜いていました。彼は、それらが何を食べ、どこで眠り、互いにどんな行動をとるかまで把握しています」(プロダクション・デザイナー リック・カーター/映画「AVATAR」プログラムより)

これと似ているのが、「インセプション」であった。これもクリストファー・ノーラン監督の頭の中から紡ぎだしたものだ。
―――「インセプション」の構想を抱き始めたのは、10年ほど前とうかがっています。もともとのインスピレーションは、どこから来たのでしょうか?

はっきりとは覚えていない。でも、僕は子どもの頃から夢というものに魅了されてきたんだ。自分が眠っている間に、自分の心が一つの世界を創造しているという部分にね。そのテーマを映画で探索してみたいとずっと思ってきたんだよ。そして10年ほど前に“泥棒”映画の方向からアプローチしてみたらどうだろうと思いついたんだ。もし誰かの夢、あるいは潜在意識の中に入っていけるとしたら、それをどう使えるのだろうか? (「インセプション」パンフレット・クリストファー・ノーラン・インタビュー)( 夢の中のミッション「インセプション」考(ネタバレあり) )

なぜ「インセプション」は監督賞にノミネートすらなかったか

今回の、アカデミー賞でクリストファー・ノーラン監督は監督賞にノミネートがなかった。それに疑問を呈したのが、ジェームズ・キャメロン監督である。
[映画.com ニュース] 製作総指揮を手がけた3D映画「サンクタム」のLAプレミアに出席したジェームズ・キャメロン監督が、第83回アカデミー賞のノミネートに疑問を呈した。

キャメロン監督は、ハリウッド・レポーター誌の取材に対し「インセプション」の8部門ノミネートは少ないとコメント。とくに、監督賞にクリストファー・ノーラン監督がノミネートされていないことを問題視した。「『インセプション』は、昨年公開された作品のなかで最も刺激的な映画であり、演出も文句なしの素晴らしさだった。しかし、その監督がノミネートすらされていないとはね。アカデミーの好みは僕とはずいぶん違っているようだね

ちなみに、キャメロン監督が手がけた「アバター」は、昨年のアカデミー賞でキャスリン・ビグロー監督の「ハート・ロッカー」に作品賞・監督賞などで屈している。アカデミーの選択に懐疑的になるのも当然かもしれない。(ジェームズ・キャメロン監督、ノーラン監督のオスカー落選を嘆く)

おそらく、キャメロン監督は、ノーラン監督に同じ匂いを感じていたのかもしれない。昨年の「アバター」は、頭打ちの映画業界にとって3Dブームという果実をもたらした。そのあとの映画は、猫も杓子も3Dが乱舞した。それは、家電業界も同じだった。たちまち3Dテレビは陳腐化してしまったが。

この結果が今年のアカデミー賞の実話物の流行である。監督の頭の中から紡ぎだされた「アバター」や「インセプション」のような作品からは、作品賞・監督賞が取れないということがばれてしまったのである

なぜ「ソーシャル・ネットワーク」でなくて「英国王のスピーチ」だったのか

その理由は、アカデミー関係者の高齢化が関係あるらしい。映画.comの編集部はこんなことを書いている。
英国王のスピーチ」と「ソーシャル・ネットワーク」の対決となった今年の作品賞。受賞は最多12部門ノミネートの「英国王のスピーチ」で決まりだろう。PGA(アメリカ製作者組合賞)、DGA(アメリカ監督組合賞)をダブル受賞し、オスカーをほぼ手中に収めたと言っていい。内容的にもアカデミー会員好みの英国製歴史ドラマで、誰もが感動できる分かりやすい作品になっている。

一方、デビッド・フィンチャー監督の「ソーシャル・ネットワーク」は時代を象徴する映画であることは間違いないが、作品自体が皮肉に満ち溢れているため、高齢者が多く在籍する保守的なアカデミー会員には敬遠される可能性が極めて高い。これまでもフィンチャーのように辛辣さが持ち味だったオーソン・ウェルズ監督(「市民ケーン」)やスタンリー・キューブリック監督(「博士の異常な愛情」「時計じかけのオレンジ」)の映画はすべて作品賞、監督賞を逃している。(映画.com 編集部の展開予想)

ともかく、今日3月1日は、1,000円で見られる映画の日、この「英国王のスピーチ」と「ソーシャル・ネットワーク」を見比べてみてはどうだろうか。
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