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素人だから言えることもある

映像配信を巡る日米戦争の流れ(ホームサーバの戦い・第91章)

今回のお題は「映像配信」だという。僕は、「ホームサーバの戦い」シリーズで、その時々のニュースと絡めて、ソニー、任天堂、アップル、グーグル、マイクロソフトなどのメーカーが映像配信を目指していく姿を描いている。

ソニーとマイクロソフトの戦略

PS3の父、久夛良木氏は、2006年11月、こう言っている。
ネットワークで配信(再配信)可能なコンテンツには、ゲームの他にも、映画・音楽、許諾を受けた放送番組、あるいは個人が撮影した膨大な数の写真や動画などがあるだろう。今後、家庭において「プレイステーション3」自体がホーム・サーバーとなり、他の携帯機器やネットワーク接続されたデジタル家電機器、さらにはパソコンにも、ゲームや映像や音楽を配信することも可能になる。(久多良木健氏からの手紙、「PS3が創るリアルタイム・コンピューティングの未来」)(家電屋VSコンピュータ屋、ホームサーバーの戦い)
そもそも久夛良木氏が、プレイステーションを作った理由だが、
任天堂×ソニーのタッグで開発されていた「プレイステーション」は、簡単にいえば、スーパーファミコンにCD-ROMドライブを接続したものだ。当時、すでにCDは音楽メディアとしてはレコードを駆逐していたが、データ記録用メディアのCD-ROMとしてはまだまだ発展途上であった。NECホームエレクトロニクスがゲーム機に採用していたものの、パソコンなどでの利用は進んでいなかった。

(中略)

その頃から、久夛良木は、映像や音、テキストなどすべてのデータを処理できる「エンターテイメント・コンピュータ」の可能性を夢みていた。コンピュータが進化していけば、文字だけでなく、音声・映像を扱うようになるということは、コンピュータを扱うエンジニアにとって、自明のことであった。だが、当時のパソコンの性能では、久夛良木が望むようなコンピュータの役割を果たすことは難しかった。パソコンに期待できない以上、もっとも可能性の高いジャンルはどこか……。

久夛良木が目をつけていたのはゲーム機であった。ゲーム機とパソコンは違うもののように思えるが、マクロ的な視点に立てば、どちらもコンピュータであることに違いはない。ゲーム機は映像表示に関してはパソコンよりも高い性能をすでに持っていた。そして何よりも大きな理由は、ゲーム機がすでにリビングに「あった」ことだスーパーファミコン時代となり、テレビの周辺にゲーム機がある家庭が珍しくなくなっていた。こうした環境は「久夛良木にとってのコンピュータ」がまさに狙うところにあったからである。(西田 宗千佳著「美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史」講談社BIZ )( 任天堂とソニーの15年戦争(ホームサーバの戦い・第41章))

一方、マイクロソフトの元社長のビル・ゲイツ氏が、Xboxを作った理由を探ると、
リビングルームへの進出をもくろむビル・ゲイツ会長にとって、テレビ用ゲーム機の開発は懸案のひとつだ。テレビこそ、PCを掌握した彼が次にねらっていたものだった。自社のソフトをゲーム機に組み込ませるという道もあったが、言うのは簡単でも、実現するのは困難だった。

マイクロソフトは、ゲームで何度か失敗を喫している。同社のPCゲーム事業は成長してはいたが、大して利益は上がっていない。「マイクロソフト・フライト・シミュレータ」やそれより後に出た「エイジ・オブ・エンパイア」といった代表作は、何百万本も売れていた。しかしゲーム機となると、話は別である。1983年に家電メーカー数社を巻き込み(ソニーも入っていた)、マイクロソフトが旗振り役となって、PCとゲーム機のハイブリッドマシン「MSX」をアジア市場に投入したが、いいソフトに恵まれなかったために、あまり売れなかった。

しかし、ゲイツはあきらめなかった。彼は1999年にプレイステーション2(PS2)が発表されるよりずっと前に、ソニーのCEO出井伸之に、マイクロソフトのプログラミングツールを使ってほしいと持ちかけている。次に出るPS2用のゲームを作るのがこれで楽になると主張したが、出井は断った。

出井によれば、ほかの分野でもマイクロソフトの提案を退けたので、ゲイツはかんかんになったそうだ。自分の返事をゲイツがあまりにも個人的に受け止めたことに、出井は驚いた。

世界的企業のCEOであれば、同業者が市場によってはライバルにも盟友にもなりうることを、普通は理解しているはずだからだ。「マイクロソフトと組めば、「オープンアーキテクチャ、イコール、マイクロソフトアーキテクチャですからね」と出井は、『ニューヨーカー』のケン・オーレッタとのインタビューで述べている。

失敗に終わったソニーとの交渉の場から戻ってくると、ゲイツは部下に言った。ソニーはマイクロソフトと競いたがっている。PS2は、単なるテレビ用のセットトップボックスやゲーム機の枠に収まらないだろう。PCにとって脅威になるのは間違いない。ゲイツの口ぶりから、マイクロソフトの幹部たちは、交渉がなごやかに進んだものと勘違いした。実際、出井が受けたい印象は正反対だったのだが。(ディーン タカハシ著/元麻布 春男監修/永井 喜久子訳「マイクロソフトの蹉跌—プロジェクトXboxの真実」ソフトバンク)( Xbox vs PS2(ホームサーバの戦い・第8章) )

つまり、ビル・ゲイツ氏は、PS2を通して、ソニーと共通の認識を得ていたようだ。ゲーム機は、映像配信のための単なるとっかかりにすぎない。ポストPCを狙う彼らにとって、映画・テレビなどのコンテンツをコントロールできるデバイスはどれほど魅力的に映ったか。

任天堂の戦略

任天堂の映像配信は、ソニーやマイクロソフトと違って、あくまでもゲームユーザーへのサービスである。例えば、マイクロソフトが、任天堂を買収しようとしたときだ。
任天堂アメリカの取締役副社長ピーター・メインは、この話し合いの席に何回か居合わせて、両社の考えが遠く隔たっていることを見てとった。

「わが社の財務内容はしっかりしているので、これまでのように独立してやっていく自信があった」とメイン。「それに、我々のゴールと向こうのゴールが違っていることがはっきりしてきた。ソニーとマイクロソフトは似た戦略をとっているようだ。

だが、我々は200億ドルのゲーム産業はそれだけでひとつの市場と考えている。デジタルワールドが収束し、市場が統合されていくという考え方もあるが、だからといってわが社の資産を複数のメディアにまたがらせる必要は感じていない。ゲームのコンテンツにひたすらこだわることこそ、我々にとって大いに役立つと信じている」(ディーン タカハシ著/元麻布 春男監修/永井 喜久子訳「マイクロソフトの蹉跌—プロジェクトXboxの真実」ソフトバンク)( Xbox vs PS2(ホームサーバの戦い・第8章) )

また岩田社長は、
任天堂は単なる映像配信は手がけない。が、ゲーム的な要素が絡んだ映像配信であれば、自ら乗り出すし、他社が手がけるのであれば、単なる映像配信だってカラオケだって認める。ネット上で展開されているすべてのサービスについて、同様のことが言える。


つまり、それが実用ではなく娯楽と捉えられるものであれば、ビデオゲームの敵にならないことであれば、どんなサービスも、どんなコンテンツもWiiの商材と成り得るのだ。岩田は言う。


「僕らは既に、ゲームというものが何なんだということに関して、あまり狭く考える必要はないんじゃないかというところに話がきている。何か人間が入力して、何か返ってきて面白かったら、それは僕らの仕事としていいじゃないですか」

(中略)

「別に僕はリビングルームの覇権を狙って、それで大儲けしようと考えてWiiを作ったわけじゃないんです。そうじゃなくて誰の敵にもならない箱を作ったら、いやぁ、リビングの覇権も付いてくるかもしれないみたいなものになった。リビングの覇権は目的じゃないんですよ。だけど、気づいたらゲリラ的に、覇権を握るのに一番近いところにいるのかもしれない」(井上理著「任天堂“驚き”を生む方程式」日本経済新聞出版社)(任天堂がWiiで映像配信を始める理由(ホームサーバの戦い・第32章) )

任天堂は、E3で次世代Wiiの発表をするという。7月の地デジ化を控え、HD化は避けられない。このことが、任天堂の独自路線を狭めてしまう可能性もある。

アップルの戦略

任天堂の岩田社長は「リビングの覇権」と言ったが、デジタル時代の覇者(日本語訳)と言ったと言われるのがアップルのスティーブ・ジョブズ氏だ。
映像・画像・音楽・書籍・ゲームなどのあらゆるコンテンツがデジタル化され、同時に通信コストが急激に下がる中、その手のコンテンツを制作・流通・消費するシーンで使われるデバイスやツールは、従来のアナログなものとは全く異なるソフトウェア技術を駆使したデジタルなものになる。アップルはそこに必要なIP・ソフトウェア・デバイス・サービス・ソリューションを提供するデジタル時代の覇者となる」(アップルの30年ロードマップ)(アップルのホームサーバ計画(ホームサーバの戦い・第43章)
これは2006〜2007年にCNET Japanでもαブロガーだった中島聡氏のブログ「life is beautiful」の記事だが、アップルは着実にデジタル時代の覇者を目指しているようだ。覇者になるための条件は、世界でどれだけ多くの端末を普及させるかにかかっている。


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