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素人だから言えることもある

日本人の古層と空気

池田信夫氏の日本政治の「古層」を読んでいると、次の箇所があった。

菅首相の極端な行き当たりばったりの行動は、こうした日本政治の「古層」が津波に洗い流されて露出したのかもしれない。きのうアゴラBOOKセミナーでも田原総一朗さんと意見が一致したことだが、こうした日本政治の特異性は、もともと日本が世界でもまれにみる平和な国で、国家権力を必要としなかったことに原因があるのだろう。
同じような表現を読んだことがある。これは、ドナルド・キーン氏は日本人の何に感動したのか(2) でも引用した作家の石田氏の言葉、
こういう災害に起こるとですね。それぞれの国の地の部分が浮き上がってきますよね。で、マイケルさんがおっしゃってるような、そのコミュリタリアニズム(共同体主義)の規範というのは、日本人の場合は、思想かとかではなくて、生活の中にしみ込んでしまって、トラブルがあるたびに出てくるんですよ。ですから、外国のメディアで暴動や窃盗が起こらなかったことが奇跡だというのがありましたけれど、それが日本では、まったく当り前です。ええ、そういう災害の現場で、盗みが起こるようなことは誰も想定していないですね。(抜き書き・マイケル・サンデル 究極の選択「大震災特別講義〜私たちはどう生きるべきか〜」(1) )
また、これらの問題は、「空気」に集約される。松本発言をめぐる奇妙な「空気」では
しかも情けないのは、他の社がやりはじめると、われもわれもと(当日は放送しなかった)同じビデオが何回も出てくることだ。1社だけだと「糾弾」されるが、みんなでやると安全だからである。日本をだめにしているのはこういう「空気」だということを、マスコミは身をもって教えてくれる。
「空気」といえば、宮島理氏のブログにも出てきた。
こうした「空気」の時は、空想的理想論がもてはやされる。「原発の電気は使いたくない」という子供じみた言い回しをして、「自然エネルギー」がブームになるのは、「血塗られた平和は要らない」という子供じみた言い方をして、「非武装中立」を唱えた時代と重なる。そう、「自然エネルギー」とは、21世紀の「非武装中立」なのだ。(「正義」を簡単に着替える日本人)( 日本人の謎「極端から極端へ」)
だが、こうなると冷静な議論が成り立たない。マスコミが一種の津波と化してしまう。池田信夫氏のツィッターで
私も原発はもうごめん。感情論と事実誤認とイデオロギーばかりで、生産性ゼロ。マスコミが関心を失なうまで冷静な議論はできない。http://twitter.com/#!/ikedanob/status/89702518313062400
僕は、これもまたマスコミの「相乗的なだれ現象」だと思う。
近年のジャーナリズム報道の顕著な特色の一つに「相乗的なだれ現象」と呼ばれる状態がある。造語者の野崎茂によれば、これは「メディア間の運動、相互影響が極度にたかまり、マス・メディア全体として一種の眩暈状態におちいってしまって、エディターシップの麻痺ないし喪失がおこる、という状態をさす」。私が見るところでは、この現象には次の三つの共通した特色があり、いわば「総ジャーナリズム状況」とでもいうべき状態を呈する。

(1)ある事件にすべてのマス・メディアが動員され、(2)その事件に紙面・番組をできるだけ割き、(3)その報道の姿勢がすべて同じ。近年の大きな事件をふりかえってみると、すべてこの三つの特色が現れていることに気がつくだろう。事件が発生すると、新聞・ラジオ・テレビ・週刊誌・月刊誌を問わずすべてのメディアが総がかりで取材にあたり、活字メディアは紙面を大々的に割き、放送は特別番組を組み、そしてその報道内容がどれも似たり寄ったりだったりするはずである。


こういうと、すぐに反論が起こるかもしれない。大事件ならば、すべてのメディアが総がかりで取材にあたり、紙面・番組で大きく扱うのは当然ではないか、と。しかし、私は大事件だから総ジャーナリズム状況になったのだとは思わない。総ジャーナリズム状況のゆえに、われわれ読者、視聴者は大事件だと思ってしまうのだ。(新井直之著「ジャーナリズム いま何が問われているか」東洋経済新報社)( ジャーナリズムはマス・メディアの特権ではない(マス消滅元年・6) )

松本氏のオフレコ発言は最初は、民放一社だけだったという。ところが、1社はじまるとこの流れが止まらない。いろいろな方向から議論すればよいのだが、その姿勢・方向がすべて同じ。ただ、この津波が消えてしまうまで沈黙をつづけなければならぬ。少しでも発言すれば、またそこから火の手が上がるからだ。そして、この「相乗的なだれ現象」がマスコミの古層とすれば、根本的な改革は不可能だ。マスコミを捨てて新たな冷静なジャーナリズムを構築していく必要がある。
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